シリンジや注射器、バイアルなどの医薬品部材では、ゴム栓の装着状態やキャップの浮き、フランジの欠け、寸法不良などが製品品質に影響するため、製造工程でさまざまな外観・形状検査が行われています。
こうした検査を自動化する方法のひとつが、対象物の高さや段差、傾きなどを取得できる3Dセンサーです。2Dカメラでは判別しにくい高さ方向の情報を取得できるため、プランジャの挿入深さやキャップの浮き、部品の傾きなどを数値として評価できます。
一方、ガラス製シリンジや透明樹脂容器は、光が透過・屈折するため、使用する3Dセンサーの測定原理によっては安定した形状データを取得できません。そのため、検査する部位の材質や透明性、必要精度、製造ラインのタクトタイムなどを踏まえて測定方式を選ぶことが重要です。
ここでは、シリンジや注射器などの医薬品部材をインライン検査する際の3Dセンサーの使い方と、製品選定時に確認したいポイントを解説します。
シリンジ・医薬品部材で
3D検査が使われる場面
3Dセンサーでは対象物までの距離や表面形状を取得できるため、部品の有無だけでなく、高さ、段差、傾き、挿入深さなどを検査できます。
シリンジでは、透明な筒部分そのものだけでなく、ゴム栓、プランジャ、キャップ、針基など、材質や光学特性の異なる複数の部品が組み合わされています。そのため、検査箇所ごとに適した測定方法を選ぶことが重要です。
| 検査対象 | 主な検査内容 | 材質・透明性に関する注意点 |
|---|---|---|
| ゴム栓・ プランジャ |
挿入深さ、傾き、位置ずれ、装着不良、変形などを確認。基準位置との高さ差を利用して、押し込み量を検査することもできます。 | 黒色や濃色のゴムは反射光量が少なくなる場合があります。使用するセンサーが低反射材を安定して測定できるか確認が必要です。 |
| キャップ・ アルミシール |
キャップの浮き、傾き、装着高さ、かしめ状態、変形などを確認します。 | アルミなどの金属部品は光沢や正反射の影響を受ける場合があります。鏡面・高反射面への対応力を確認します。 |
| 針基・ ハブ部 |
取り付け高さ、傾き、位置ずれ、変形、部品の有無などを検査します。 | 透明・半透明樹脂が使用されている場合は、一般的なレーザー三角測量方式では測定が不安定になることがあります。 |
| シリンジの フランジ |
高さ、厚み、外形、割れ、欠け、変形などを確認します。フランジ面の高さを取得することで傾きを評価することもできます。 | ガラスや透明樹脂製の場合は、透過・屈折・多重反射の影響を考慮する必要があります。微細な表面傷については2D検査の併用も検討します。 |
| 充填液面の高さ | 液面位置、充填高さ、設定した基準位置からの差などを確認します。 | 透明容器内の透明液体は3Dセンサーで直接測定できるとは限りません。液体と容器の屈折率、界面からの反射、測定原理によって対応可否が異なるため、2D透過検査なども含めて検討します。 |
| 容器の外径・ 全長 |
外径、全長、高さ、円筒形状の変形、フランジを含む外形寸法などを確認します。 | 不透明容器は比較的測定しやすい一方、透明なガラス・樹脂容器では測定方式の選定が重要です。透明体に対応する共焦点方式などが候補になります。 |
3Dセンサーによる検査は、部品の高さや位置関係を数値化できることが大きな特徴です。例えばゴム栓が規定位置まで挿入されているか、キャップの一部だけが浮いていないかといった、立体的な装着状態の確認に適しています。
医療・医薬品分野での3Dマシンビジョン活用については、以下のページでも紹介しています。
シリンジの外観検査における
2D検査と3D検査の違い
シリンジの外観検査では、すべての検査を3Dセンサーへ置き換えればよいわけではありません。色や模様、微細な傷、異物などを見る2D検査と、高さや段差、傾きなどを見る3D検査では得意とする検査内容が異なります。
| 比較項目 | 2Dカメラ | 3Dセンサー |
|---|---|---|
| 取得する情報 | 明るさ、色、輪郭、模様など | 高さ、段差、距離、3次元形状など |
| 傷・汚れ・異物 | 得意。照明条件を調整することで表面上の傷や異物を検出しやすい | 高さを伴う欠陥であれば検出可能。高さ変化の少ない色汚れなどには不向き |
| 挿入深さ | 画像上の位置から判断できる場合があるが、奥行き情報は直接取得できない | 基準面との高さ差として測定しやすい |
| 部品の浮き・段差 | 照明による見え方に左右される場合がある | 高さ情報として定量化しやすい |
| 傾き | 輪郭や特徴点から推定できる場合がある | 複数点の高さや面形状から評価しやすい |
| 透明ワーク | バックライトなどの照明を利用して輪郭や異物を検出できる場合がある | 測定原理によって対応可否が大きく異なる |
例えばシリンジ表面に付着した黒い異物を検出するのであれば、必ずしも3D情報は必要ありません。適切な照明と2Dカメラを使用したほうが検出しやすい場合があります。
一方、プランジャが「何mm奥まで入っているか」、キャップの片側が「どの程度浮いているか」といった検査では、3Dセンサーによって高さを直接取得する方法が適しています。
2Dと3Dを組み合わせる方法もある
実際のインライン検査では、2Dと3Dのどちらか一方に限定せず、両方の情報を利用する方法もあります。
例えば、2D画像で傷・汚れ・印字・異物を確認し、3Dデータでキャップ高さやゴム栓の挿入状態を確認すれば、それぞれの方式が得意とする情報を組み合わせて検査できます。
全数検査を自動化する際の考え方については、以下のページも参考にしてください。
透明・半透明の医薬品部材を
3D検査する際の注意点
ガラス製シリンジや透明樹脂容器は、3D測定が難しい対象物のひとつです。
一般的なレーザー三角測量方式では、照射した光の一部が対象物を透過したり、表面と裏面の両方から反射したりすることで、センサーがどの位置を表面として認識すべきか判断しにくくなることがあります。
また、円筒状のシリンジでは表面の曲率によって光の反射方向も変化します。透明だから測定できない、あるいは透明体対応センサーだから必ず測定できる、と一律には判断できません。
不透明な部位を測定対象とする
検査目的によっては、透明なシリンジ本体を直接測定する必要がない場合があります。
例えばゴム栓の挿入深さを確認したい場合、透明な筒壁そのものではなく、不透明なゴム栓の上面や基準となるフランジ部分を測定し、その位置関係から装着状態を判定できるケースがあります。
同様に、キャップや針基など測定しやすい部位を基準にすることで、透明体を直接測定する難しさを避けられる可能性があります。
透明体に対応した
測定方式を使用する
透明なガラスや樹脂そのものの距離・厚みを測定する必要がある場合は、透明体に対応した測定原理を検討します。
代表的な方式のひとつが共焦点方式です。共焦点センサーには、透明材料の表面と裏面から得られる反射光を分離し、1台のセンサーから透明体の厚みを測定できる製品があります。
例えばMicro-EpsilonのconfocalDTシリーズでは、ガラスなどの透明面を測定対象としており、透明材料の片面から表面と裏面を取得して厚みを測定できる製品が用意されています。
また、ライン共焦点方式の3Dセンサーでは、透明・鏡面対象の3D表面形状や複数層の形状を取得できる製品もあります。
ただし、透明材料であれば無条件に測定できるわけではありません。材質の屈折率、肉厚、表面形状、曲率、コーティング、測定角度などによって測定可否が変わるため、実ワークでのテストが重要です。
光学系や照明を工夫する
2D外観検査では、バックライト、同軸照明、斜光照明などを使い分けることで、透明容器の輪郭や異物、傷を見やすくできる場合があります。
3D測定でも、センサーの設置角度や受光条件、対象物に対する光の入射方向によって取得できるデータが変わります。特に曲面を持つシリンジでは、一方向からの測定だけでは死角が発生する可能性があります。
透明体や光沢面を測定する場合は、センサー単体の仕様だけでなく、ワークの向き、回転機構、複数センサーの配置などを含めて検討しましょう。
透明容器の肉厚などを確認したい場合は、厚み測定に使用できるセンサーについても確認しておくとよいでしょう。
シリンジのインライン検査に適した
3Dセンサーの選び方
医薬品製造ラインで3Dセンサーを使用する場合は、測定精度だけでなく、対象物の透明性やライン速度、設置環境なども確認する必要があります。
| 確認項目 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 透明ワークへの対応 | ガラス製シリンジや透明樹脂を直接測定する場合は、使用するセンサーが透明体へ対応しているか確認します。対応可能な材質、厚み、屈折率、測定角度なども確認しましょう。 |
| Z分解能・ 測定精度 |
ゴム栓の挿入深さ、キャップの浮き、フランジ高さなど、判定したい許容公差に対して十分な高さ方向の分解能・繰り返し精度を持つか確認します。 |
| 測定範囲 | シリンジ全体を測定するのか、キャップやフランジなど一部だけを測定するのかによって必要な視野が変わります。X・Y方向の視野とZ方向の測定レンジを確認します。 |
| タクトタイム | 製造ラインの処理個数に対し、撮像・測定・判定を完了できるか確認します。ラインを停止せず測定する場合は、測定周波数やプロファイル速度も重要です。 |
| 清浄度・ 発塵対策 |
クリーンルームなどへ設置する場合は、冷却方式、ファンや可動部の有無、筐体材質、清拭性などを確認します。使用する清掃剤や消毒方法への耐性も確認します。 |
| 上位システムとの連携 | PLCや製造設備へOK・NG判定を出力できるか、測定値や画像・3Dデータを保存できるかを確認します。製造記録として利用する場合はデータ管理方法も重要です。 |
カタログ上の最高分解能だけで
選ばない
高精度な共焦点センサーの中には、nmオーダーの分解能を持つ製品もあります。しかし、シリンジのインライン検査で重要なのは、カタログ上の最小分解能そのものではありません。
実際には、ワークの振動、位置ずれ、表面状態、ライン速度、周囲光、温度などの影響を受けます。そのため、実ワークを実際の搬送条件で測定したときに、必要な許容公差を安定して判定できるかを確認することが重要です。
外観検査向けの3Dセンサーを比較したい場合は、以下のページも参考にしてください。
医薬品製造ラインへの3D検査装置導入で
確認すべき要件
医薬品製造ラインへ3D検査装置を導入する場合、単に測定性能を満たしているだけではなく、その装置を品質管理・製造管理の中でどのように使用するかも整理する必要があります。
医薬品GMPでは、品質リスクを踏まえ、対象となる設備・システム・装置について必要なバリデーションや適格性評価を実施することが求められます。そのため、3D検査装置が製品品質の判定に使用される場合などは、導入前に自社の品質部門と必要な対応を確認しておきましょう。
| 確認項目 | 確認したい内容 |
|---|---|
| バリデーション対応 | 装置が目的とする用途で適切に機能することを確認・文書化できるよう、仕様書、校正証明、取扱説明書、試験資料など必要な文書をメーカーから提供してもらえるか確認します。必要に応じてDQ・IQ・OQ・PQなどの適格性評価への対応も検討します。 |
| データ インテグリティ |
検査結果をGMP上の記録として扱う場合は、データが正確かつ信頼できる状態で保存できるか確認します。ユーザー権限、変更履歴、時刻情報、バックアップ、監査証跡など、用途に応じた管理機能を確認します。 |
| 設置環境への 適合性 |
設置する製造区域の清浄度や環境条件に適合するか確認します。筐体の清拭性、使用する洗浄剤・消毒剤への耐性、発塵源となるファン・可動部などについても確認します。 |
バリデーションに必要な文書を
導入前に確認する
装置を設置した後になって必要な資料が不足していることが分かると、追加対応が必要になる場合があります。
そのためメーカーやシステムインテグレーターへ、装置仕様書、図面、校正関連資料、ソフトウェア仕様、試験資料、変更管理に必要な情報など、自社のバリデーション計画で必要となる文書を事前に提示できるか確認しておくことが重要です。
日本の医薬品GMPに関する通知では、設備・システム・装置に対する適格性評価として、設計時適格性評価(DQ)、設備据付時適格性評価(IQ)、運転時適格性評価(OQ)、性能適格性評価(PQ)が示されています。
検査結果を保存する場合は
データ管理方法も確認する
3D検査装置から出力されるOK・NG判定や測定値を製造記録として利用する場合は、保存するデータの範囲や保存期間、変更権限などを整理しておく必要があります。
特に電子記録を品質判定へ利用する場合は、単にCSVファイルなどを保存できるかだけでなく、誰がデータを作成・変更したのかを追跡できる仕組みや、元データが意図せず変更・削除されない管理方法についても確認しましょう。
海外向け製品などでFDA規制への対応が必要な場合には、21 CFR Part 11など、適用される電子記録・電子署名の要件についても別途確認が必要です。
3Dセンサー導入前にメーカー・
販売代理店へ確認すべき情報
シリンジの3D検査では、検査対象の名称だけでなく、材質や透明性、許容公差、ライン条件などを具体的に伝えることが重要です。
メーカーや販売代理店へ相談する際は、少なくとも以下の情報を整理しておきましょう。
- 検査対象の部位と材質:ガラス、透明樹脂、半透明樹脂、ゴム、金属など
- 検査項目と許容公差:挿入深さ、浮き、傾き、高さ、外径、全長、欠けなど
- 製造ラインの処理能力と許容測定時間
- 全数検査か抜き取り検査か
- 設置環境の清浄度クラスと清掃・消毒方法
- バリデーション対応に必要な文書
- 検査記録の保存要件:保存期間、データ形式、監査証跡、アクセス権限など
さらに、シリンジの姿勢が一定か、回転しているか、搬送時に振動するか、複数品種を同じラインで流すかといった条件も伝えておくと、実際の製造環境に適したセンサーを選定しやすくなります。
特に透明ワークはカタログの仕様だけでは判断しにくいため、実際に使用するシリンジや部品を用意し、良品と想定不良品の両方で測定テストを行うことが重要です。
よくある質問
シリンジや注射器の外観・形状を
インライン検査できる3Dセンサーはありますか?
あります。3Dセンサーを製造ラインへ組み込み、ゴム栓の挿入深さ、キャップの浮き、部品の傾き、高さ、外形寸法などを測定できる場合があります。
ただし、傷や色の異常、微細な異物などは2Dカメラのほうが適している場合があります。検査項目に応じて2Dと3Dを使い分ける、または組み合わせることが重要です。
透明・半透明のシリンジでも
3D測定はできますか?
測定できる場合がありますが、使用する測定原理と対象物の材質によって異なります。
一般的なレーザー三角測量方式では、透明体を透過した光や複数面からの反射によって測定が不安定になることがあります。一方、共焦点方式などには、ガラスや透明樹脂の表面・厚み測定に対応した製品があります。
また、シリンジの曲率や材質、肉厚、コーティングによっても測定条件が変わるため、実ワークによる事前評価が必要です。
医薬品製造ラインに3D検査装置を導入する際、
バリデーション対応は必要ですか?
3D検査装置をどの工程で、どのような目的に使用するかによって対応内容は異なります。
医薬品GMPの対象となる製造工程で品質に関わる設備・システム・装置として使用する場合は、品質リスクを踏まえて必要なバリデーションや適格性評価を検討します。
装置の選定段階から品質保証部門などと連携し、DQ・IQ・OQ・PQなどの適格性評価に必要な資料、校正、ソフトウェアや検査データの管理方法まで確認しておくことが重要です。
まとめ
3Dセンサーを活用すれば、シリンジや医薬品部材のゴム栓の挿入深さ、キャップの浮き、針基の位置、フランジの高さ、容器寸法など、立体的な形状を利用した検査を自動化できる可能性があります。
一方、傷・汚れ・異物などは2D画像のほうが検出しやすい場合があり、透明なガラスや樹脂は3Dセンサーの測定原理によって対応力が大きく異なります。検査内容ごとに2D・3Dを適切に使い分けることが大切です。
また、医薬品製造ラインへ導入する場合は、測定性能だけでなく、清浄度への適合性やバリデーション、検査データの管理方法についても確認が必要です。実際のシリンジ、良品・不良品、製造ラインのタクトタイム、許容公差などをメーカーや販売代理店へ提示し、実機テストを行ったうえで選定しましょう。



