3Dマシンビジョンはさまざまな業界で利用されるようになってきており、鉄鋼業界でも活用が広がっています。このページでは、鉄鋼業界で3Dマシンビジョンを導入するメリットや、実際に活用されている事例について紹介します。
鉄鋼業界に3Dマシンビジョンを導入するメリット
鉄鋼業界で3Dマシンビジョンを導入した場合、さまざまなメリットが考えられます。代表的なメリットは以下のとおりです。
高温・過酷な環境下でも検査できる
鉄鋼の製造工程では、圧延直後の鋼材が900〜1,200℃に達するケースがあります。このような高温環境では、人が近づいて目視検査を行うことはもちろん、接触式センサーを使った計測も困難です。
3Dマシンビジョン(光学式センサー)は計測対象に触れる必要がないため、離れた位置から非接触で形状や表面の状態を取得できます。センサー本体を水冷・エアパージ構造のハウジングで保護することで、製鉄所特有の高温・多塵・振動といった過酷な環境下でも安定して稼働できるのが大きなメリットです。
高速ラインでの全数検査が実現できる
熱間・冷間圧延ラインは毎分数十〜数百メートルのスピードで鋼材が搬送されます。このような高速ラインで人の目によるチェックを行うことは事実上不可能であり、サンプリング検査に頼らざるを得ない状況が続いていました。
最新の3Dラインセンサーは毎秒7,000〜10,000プロファイル以上の高速スキャンに対応しており、搬送ラインに組み込んでリアルタイムで全数検査を行うことが可能です。見落としによる不良品の後工程流出を防ぎ、品質管理の信頼性を大幅に向上させられます。
微細な表面疵・表面粗さを定量的に把握できる
鋼板の表面には、幅0.3mm以下のスクラッチ疵やロール疵など、目視では検出が難しい微細な欠陥が発生します。3Dマシンビジョンであれば、3次元データと輝度(2D)画像を組み合わせることで、こうした微細な疵の有無・位置・深さを安定して検出できます。
さらに近年では、従来は研究用途に限られていた「表面粗さ(Ra・Sa・Sp など)」をインラインで計測する技術が実用化されてきています。鋼材表面の摩擦特性や密着性を工程内でリアルタイムに把握できるようになり、品質管理の精度がさらに高まります。詳しくは後述の「表面粗さのインライン計測」の項目で紹介します。
非接触での精密寸法計測が可能
鋼板・形鋼・鋼管などの寸法を精密に管理するには、従来は冷却後に接触式ゲージで抜き取り検査を行うのが一般的でした。しかし接触式計測では製品表面に傷がつくリスクがあり、メッキ鋼板や精密研磨品ではとくに問題となります。
3Dマシンビジョンを使えば、板幅・断面プロファイル・反り・曲がり(真直度)などを非接触で±0.05〜0.1mm精度で計測できます。大規模な製鉄設備においても、複数センサーを組み合わせた360°計測ゲートを設置することで、巨大な鋼材を一度のスキャンで全周計測することが可能です。
不良の早期検出でコストを削減できる
表面疵や寸法外れに気づくのが遅れると、不良状態のまま後工程(プレス・溶接・塗装など)へ流れてしまい、廃棄・手直し・クレーム対応のコストが膨らみます。3Dマシンビジョンを導入すれば製造工程の早い段階で問題を検知し、ラインを止めて原因を修正できるため、不要な廃棄を大幅に減らすことができます。
また、全数の検査データを蓄積することで工程異常の傾向分析や予知保全への展開も可能になり、長期的なコスト削減にもつながります。
鉄鋼業界で3Dマシンビジョンを活用した事例
鉄鋼業界ではどういった形で3Dマシンビジョンが使われているのでしょうか。工程別に事例を紹介します。
鋼板・スラブの表面疵自動検査
https://www.sick.com/kr/ko/w/blog-ranger3-3d-vision-steel-industry
熱間圧延・冷間圧延で製造される鋼板やスラブには、ロール疵・スケール疵・スクラッチ疵などさまざまな表面欠陥が発生します。これらを目視で全数検査することは、ライン速度と24時間稼働の観点から現実的ではありませんでした。
3Dラインセンサー(光切断法)を圧延ライン上部に設置し、搬送中の鋼板を連続スキャンすることで、疵の有無・位置・深さ・面積を同時に取得できます。SICK社のRanger3は独自のROCC技術(高速オンチップ演算)により毎秒7,000フレームの高速3Dスキャンを実現しており、高温で揺らぎのある鋼材表面でも安定してレーザーライン輪郭を検出します。
ドイツのIMS Messsysteme GmbH社はSICK Ranger3を自社製X-3Dvision計測システムに採用し、連続鋳造プラント・熱間圧延ミル・管圧延ミルにて360°全周表面検査を実現しています。輪郭精度0.05mm・繰り返し精度±0.08mmで、幅0.3mm以上の表面疵を検出可能です。
圧延・鋳造工程における断面プロファイル計測
H形鋼・I形鋼・レール・鋼管などの形鋼製品は、断面寸法(幅・高さ・フランジ厚・ウェブ厚など)が規格値に入っているかを厳密に管理する必要があります。従来は冷却後にノギスや接触式ゲージで抜き取り検査を行うのが一般的でしたが、全数管理や熱間状態での計測には対応できませんでした。
複数の3Dラインセンサーを製品の周囲360°に配置した「プロファイル計測ゲート」を圧延ライン出側に設けることで、熱間状態(約900℃)のままリアルタイムで断面全形状をスキャンし、寸法の合否判定を自動で行えます。計測データを圧延ロールの制御にフィードバックすることで、寸法外れの発生を事前に抑制するクローズドループ制御も実現します。
大規模な製鉄所では、巨大なスラブや厚板を対象とした広視野計測ゲートも構成できます。LMI Technologies社のGocator 2500シリーズはスキャン速度が最大10kHzに対応しており、熱間圧延鋼(ホットロール材)を含む高速移動ラインでの形状計測に活用実績があります。ブルースペクトルレーザーの採用により、光沢面・鏡面に近い研磨鋼でも安定したプロファイル取得が可能です。
https://linx.jp/solution/3d/product/gocator2000/
溶接ビードの3D外観検査
鋼管製造(ERW溶接鋼管・スパイラル鋼管など)や鋼構造物の組立工程では、溶接部の品質管理が安全上極めて重要です。溶接ビードには脚長不足・スパッタ付着・ピット・アンダーカット・ビード蛇行など多様な欠陥が発生しますが、目視では見落としが多く、検査に時間もかかります。
3Dラインセンサーを溶接ビードに沿って走査することで、ビード断面の3次元形状データを連続取得し、脚長・ビード幅・スパッタ有無・ピットの深さなどを自動で計測・判定できます。光切断法によって金属光沢の影響を受けにくい安定した計測が可能で、インラインでの全数検査を実現します。
| 検査項目 | 従来の目視検査 | 3Dマシンビジョン |
|---|---|---|
| 脚長・ビード幅の計測 | スケール目視で±1mm程度 | ±0.1mm以下の自動計測 |
| スパッタ検出 | 大型のみ検出可能 | 0.3mm以上を全数自動検出 |
| ピット・アンダーカット | 深さの定量化が困難 | 深さ・体積を定量的に計測 |
| ビード蛇行 | 長尺では見落とし多数 | 全長のビード軌跡を自動記録 |
| 検査速度 | 1本あたり数分〜10分以上 | 10m/min以上の高速全数検査 |
| データトレーサビリティ | 記録・保管が困難 | 点群・判定データを自動保存 |
鋼管・棒鋼の外径・真直度の非接触計測
鋼管や棒鋼・線材は断面が円形のため、外径・真円度・真直度(曲がり)を全数管理することが求められます。接触式ゲージによる計測は時間がかかり、複数箇所の抜き取りにとどまるのが一般的でした。また、高温の圧延直後に計測する場合、接触計測では熱膨張の影響を受けるため、非接触計測が不可欠です。
円周方向に複数台の3Dラインセンサーを配置した「360°計測リング」を採用することで、鋼管・棒鋼の全断面プロファイルを非接触でリアルタイム取得できます。外径・偏肉(肉厚の偏り)・真円度だけでなく、搬送方向の長さデータを連続取得することで曲がり(真直度)も同時に算出できます。製鉄所のような大規模設備においても、長尺の形鋼や大径鋼管に対応できる広視野センサーを複数組み合わせることで、全長にわたる寸法管理が実現します。
スクラップヤード・加工現場でのビンピッキング自動化
製鉄所やコイルセンター、スクラップ処理現場では、形状や向きがバラバラな鋼材・スクラップをロボットで自動的にピッキング(取り出し)する需要が高まっています。しかし従来の2Dカメラでは積み重なった金属部品の3次元的な位置・姿勢を正確に把握することができず、人手によるピッキング作業が続いていました。
3Dエリアセンサー(縞投影式またはステレオ式)をロボットアームの上部に設置し、コンテナ内のワーク全体の点群データをスキャンします。AIと組み合わせることで、重なり合ったワークの中から把持可能な1個を自動的に認識し、ロボットへ位置・姿勢情報を送信してピッキングを実行します。24時間無人での搬送自動化が実現します。
https://linx.jp/solution/3d/case/
注目トピック:表面粗さのインライン計測とは
研究室だけのものではなくなった「表面粗さ計測」
鉄鋼・金属加工の分野で近年注目されているのが、製造ラインで表面粗さをリアルタイムに計測する「インライン粗さ計測」です。
表面粗さとは、製品表面の細かな凹凸の程度を数値で表したもので、Ra(算術平均粗さ)・Sa(面の算術平均高さ)・Sp(最大山高さ)などの国際規格(ISO 25178 等)に基づいたパラメータで管理されます。この数値を見ることで業界の担当者は製品表面が「ツルツル」か「ザラザラ」かを定量的に判断できます。計測単位は通常ナノメートル〜マイクロメートルと、寸法計測(ミリメートル単位)とは異なる精細さが求められます。
表面粗さは、部品の摩擦特性・密着性・疲労強度などに直接影響します。たとえば鋼板にゴムシートや塗装膜を密着させる場合、表面の粗さが剥がれやすさに関係します。また自動車や精密機械向けの金属加工品では、表面の滑らかさが摺動性(すべりやすさ)に影響するため、厳密な粗さ管理が求められます。
これまで表面粗さの計測は、接触式の粗さ計(触針式)や顕微鏡を使った研究開発用途が主流で、1cm角の領域を測定するだけでも数十分かかるケースもありました。非接触の計測機器(共焦点顕微鏡・白色干渉計など)も存在しますが、タクトタイムが長いため製造ラインへの組み込みが難しく、サンプル抜き取りによるオフライン検査にとどまっていました。
しかし近年、共焦点ラインセンサーなどの技術進化により、マイクロメートル単位の粗さパラメータを高速かつインラインで取得できるセンサーが実用化されています。寸法計測・外観検査・位置決めに並ぶ新たな用途として、鉄鋼・金属加工業界での導入検討が進んでいます。
たとえばLINXが取り扱うheliInspect(heliotis社製)は、超高精度3Dエリアセンサーとして半導体・金属・自動車部品などの分野で活用されており、高精度な表面形状の3次元計測が可能です。従来は研究用途に限られていた精細な表面形状の計測をインラインで行える製品として、鉄鋼・金属加工の現場でも今後の活用が期待されます。
https://linx.jp/solution/3d/product/heliinspect/
まとめ
鉄鋼業界における3Dマシンビジョンの活用は、高温・高速・過酷環境という従来は「検査の死角」となっていた領域を、非接触・全数・リアルタイムという形で可視化するものです。表面疵の自動検出・断面プロファイル計測・溶接品質管理・ビンピッキング自動化など、工程の上流から下流まで幅広く適用できます。
また、これまで研究用途に限られていた「表面粗さのインライン計測」が実用段階を迎えており、寸法計測・外観検査・位置決めと並ぶ新たな計測用途として鉄鋼・金属加工業界での導入が広がっています。
本サイトでは、寸法計測や外観検査、位置決めといったそれぞれの製造工程のFA化に強いメーカーや販売店、製品の紹介を行っていますので、導入を検討されている場合にはぜひ参考にしてみてください。



